やまもとのグレーゾーン

札幌の絵描き山本雄基のきまぐれ雑感と日常。

カテゴリ:海外美術鑑賞記 > 2013冬スペイン

バスはいくつかの街に寄りながら、
朝6時前にバルセロナ北ターミナルに着いた。
気付けばたくさん人が乗ってる。風邪が皆さんにうつらないことを祈る。

まだ日も出てなくて、しかもなんとすごい大雨。
体調はMAX悪化して動けず。これは39度くらいはありそうだな。
ベネチアでY子を置いて楽しんだ罰か…!

ターミナルのカフェなども30分後じゃないと開かないので、
仕方なくベンチで座って雨が弱まるのを待つ。気温があんま寒くないのが救いだ。 
Y子もまだ本調子ではなくフラフラしており絶望的光景だ。今までの旅で一番ヤバい。
朦朧としながら暗い歌を歌っていた記憶がかろうじて残っている笑 

カフェが開き、ココアに救われ、
雨も少し弱まったので移動してみることに。

観光できるわけなくて、仕方なく予約してたホステルへ向かう。
しかし、こんな朝っぱらからチェックインできるのだろうか。
 
スペインは、誰もがスリに気をつけろと言う場所なので
どんだけ野蛮な街かと気構えていたが、
バルセロナにおいては
地下鉄や街はむしろイタリアなんかよりも清潔感あり。 

ピカソ美術館近くのホステル到着。
ヘロッヘロで受付のおっさんにチェックインをお願いしてみる。
おっさん、スペイン語しか話せないのでPCのモニタをコチラに向けて、
Google翻訳で会話してきた笑

そして、特別にチェックインしてくれることに。優しい!!!!
即眠り、昼過ぎに起きてY子が近所でご飯と薬を調達してくれて、また寝る。
やはり薬がデカすぎて飲むのがタイヘンだ。
Y子にどっか見て来て良いよと提案してみたが、
移動プランは基本自分が握ってるし、雨だし、1人不安ということで
今日は沈没。雨も止まず結局2人して寝るだけのグロッキーな日となった。
ベネチアの自分と比べY子は優しかったので反省した。
明日はせめてサグラダファミリアくらいは見れるといいのだが。

丸一日寝たら、
朦朧としてはいるものの動けるレベルにはなったようだ。良かった。
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窓から外を眺めてみる。バルセロナは2日目も雨…あらら。
宿はカテドラルのすぐ裏なのだが、時間も体力も無いので
行き先は最低限に絞ることに。

宿からすぐ近くのピカソ美術館へ。
雨だけどずいぶん人が並んでいる。
20分程並んで入場する。立派な個人美術館だ。
撮影は不可。今回の旅では撮影不可がやたら多いなあ。

有名な初期作品の「初聖体拝領」や「科学と慈愛」、
15,6歳の時の作品とのことで驚かれる作品だが、
確かにめちゃくちゃうまいが描きかたなどはさすがにオーソドックス。 
それに根本的に根暗なピカソ…という感じ。

点数はそんなに多くないけど各時代毎につまみ食い的展示で
ピカソの驚愕の雑食感はあまりプッシュされてない印象。
展示は洗練されていてキレイ。
奥の広い部屋でラス・メニーナスのシリーズの多数のバリエーションが
一挙に展示されていて、それが一番おもしろかったな。

その後、サグラダファミリアへ移動。
地下鉄駅を出て振り向くと、さっそくあのファザードが見える。
サ、サ、サグラダファミリア… !
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もっとドデかい、それこそケルン大聖堂レベルのファザードかと思っていたが、
想像よりは小さい印象。しかしながらいやこらホントにもの凄い唯一無二感。
細部が…
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いっこいっこの彫刻がボリュームある。
これは時間かかるわけだ。

中に入ってなお驚く。
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こんな風になってんだ!
作ってる途中なのでファザードに比べると出来立てホヤホヤな質感だが、
上の方のギザギザなディティールは、
どういうスケールでどういう構造なのかもはやわからん。
ステンドグラスの抽象的な柄もカッコ良い。

全体に比べて祭壇が地味だったがこれもこれから変わるんだろか。
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作りかけの照明がごろごろ転がっとる。でけー。


しかし病み上がりの朦朧状態では。
ピカソとガウディだけでももうキツい。
一気に体力の限界がきて、向かいのケンタッキーで休む。
雨も上がらないし、本当はもっとガウディ建築を浴びたいのだけど歩くのキツイ。
渋々マドリードへ移動する事にする。 
ああ…現代美術館MACBAも行きたかったし、
海の方のバーなんかも見てみたかったなあ。
バルセロナらしさをほとんど体感できずに終わってしまった。

バルセロナ・サンツ駅へ。ここもキレイだ。
英語可能なチケット窓口が少ない。

スペイン国鉄レンフェ(Renfe)、イタリアに比べると高額だなあ。
Aveという特急でマドリードまで90ユーロくらいか… イタリアの倍する!
新幹線と同じくらいだな。
高いだけあって、ゲートが空港のような感じ。
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そんなのいらんわ〜 そして高い割には車内でwifi使えねえし。
と文句を言いつつ乗り込んで、
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3時間でマドリッド到着。

さすが首都、都会だ。
宿は駅からすぐ近く。ホステルというかホテルのようだ。
でも安い、一泊20ユーロ弱。 
体調も優れないので早めに寝よう。やれやれ。 

南ヨーロッパ鑑賞旅最後の街マドリッド。

宿を出てすぐのマクドナルドで朝食。
イケメン系店員がカプチーノにスマイル顔を描いて、
Y子にニコヤカにウインクで決めて来た。
さすがラテンの血はイケてるなあ。

まずはプラド美術館へ。宿から徒歩10分だ。
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絵を描く者なら一度は見ておきたい、
ベラスケスの「ラス・メニーナス」がついに拝めるのだ…! 

期待通りさすがの巨大美術館な上にそのラインナップが独特。
ここも撮影禁止なので残念。なのでサラッと書く。

ベタだけどグレコが並ぶ部屋とか変すぎる。
でもグレコはファーストインパクトから慣れてくると物足りなくなってくるかも。

ベラスケス。
まとまっていろいろなベラスケス絵画を拝める贅沢さ。
まず、おそらくベラスケスの肖像画は飛び抜けて似ていると思われる。
なぜそう思うかと言えば、
どんな画家も顔を描くときって独特の表情クセがでてるものだけど、
ベラスケスにおいては、どの顔も表情まで完璧に描きわけているから。
ベラスケス絵画は総じてタッチが荒くてバサバサしてるのだが、
顔だけは筆跡もボカし気味にしてデリケートに扱っているし。
とにかく、人物の顔の描写は異常に丁寧で上手い。

ラス・メニーナスを実物の大画面で目の前で見ると
絵とのやりとりができる感がハンパ無い。
この絵は近づいて見るとかなりタッチが荒いので、
その描かれた空間には入っていきづらく描写の細部に目が行く。
ある程度離れたところで明らかに適正距離があって、
そこからの眺めは不思議でしょうがない。
絵の中のいろんな地点からこっちを見てくる。
こっちから絵の方を見て、遠い鏡から跳ね返ってくる視線は国王夫妻のもの。

はぁ〜 この今自分が立っている適正距離は、
絵の表面にあたる地点から後ろの鏡までの距離に等しいんだろうな。
絵の表面にあたる地点というのはいったい何なのか…
そんな絵画の不思議がとってもわかりやすく深く現れてるなあ。

ラスメニーナスでもやはり
王女から、美人の女官、奇妙な道化師、画家本人、
と並ぶ顔の存在感が凄い。
まさに傑作。

そして、さらに総合的に圧倒された画家は何と言ってもゴヤ!
コレクションがかなり豊富で、全時代のゴヤを一挙に浴びる事ができる。
初期の日傘もあれば、カルロス4世の肖像画もあるし、キリスト磔刑画もあるし、
マハも並んでる。 1808年5月3日の銃殺も。
…ずっと前に初めてNYのメトロポリタン美術館で見た時の印象は、
ちょっとヘタでファニーでおもしろい画家だな、
程度しか思ってなかったが、それは大間違いだった。

昨年の東京のゴヤ展で気付き始めたが、
ゴヤの上手さは単純な意味の正確なデッサン力というよりは、
人の表情やポーズ、動き、精神性、
それに絵画そのものに対する深い愛情みたいなことまで感じさせる演出力にある。
加えて大事なのはユーモア。 

ゴヤで一番衝撃だったのは、晩年の部屋。
ブラックペインティングと呼ばれる連作が並んでいて、
とてつもなく暗いというか怖い。トラウマになるが凄い。
「我が子を喰らうサトゥルヌス」もこのシリーズの1枚だった。
「砂に埋もれる犬」の不穏で謎な画面も素晴らしい。 

ボッシュの「快楽の園」も拝めた。
描写自体は高解像度の画集等でかなりいいところまで鑑賞できるので
実物を見ても想像範囲内だけど、三面開かれている佇まいと淡いグリーンの
画面のキレイさには、おお〜ってなる。

他にも有名作揃いで、
しかもこうなんというかパワータイプな感じの作品がズラリと並び、
結局丸一日プラドに費やしてクタクタになってしまった。

ホントは近くのもう1つの有名コレクションが集まる
ボルネミッサ美術館にも行きたかったのだが、無理だった。 

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雨もあがって青空の下のベラスケス像。

せめてスペインらしさをと、
宿の向かいの怪しいレストランでパエリアを食べて見たら
ものすごく不味かった。店のチョイスを間違えたようだ。
どうもスペインからツイてねえな。
 

宿のすぐ隣にある現代美術館、ソフィア王妃芸術センターへ。
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ジャン・ヌーベルによって改装された建物はこれまた広くて立派。
どこの現代美術館も名のある超一流建築家が手がけてますね。

近代以降のスペイン芸術を軸に幅広いコレクション。
ひとクセっつーか3クセくらいある。
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基本的にヘビーなテーマの作品が多くて他の美術館より3割増しで疲れる。

スペイン美術、やたら暗くて重〜いわ!!パリの裸婦連打とはえらい違いだ…
スペインの歴史についても知らない事だらけなのだが、
このヘビーさはやっぱしフランコ独裁政権など社会背景からの反映なんだろうか。

まぎれて、このインスタレーション異彩放ってたな。良い。
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本物の鳥がぴーぴー鳴いてる笑
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Helio Oitucicaってブラジルの作家。もう故人なのか。

ここの目玉作品はピカソの「ゲルニカ」だ(撮影不可) 。
ゲルニカ前はやっぱり凄い人の量で、
めちゃデッカい画面を引いて見るのが困難だ。
基本細部を見て、人が減った隙を狙って好ポイントを確保。落ち着かん!

ピカソ作品も沢山見て来たが、ゲルニカは真面目直球だ。
そもそもこの巨大な画面をこんだけコントロールできてる所から
絵の上手さがダイレクトに滲み出てるし、
モチーフの一人一人がシンボル、記号、になってるあたりの
デザインセンスもあり、
悲劇的なテーマも本来のピカソの得意技だし、
破綻のない高度な負の歴史画だ。

「アヴィニョンの娘たち」のような何回見ても困惑するような謎は無いけれども、
ピカソの傑作には違いなかった。
 
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ちなみにこれ、戦後すぐくらいのピカソ作品。
まだ出てくるよ未知のピカソが。

戦後絵画らへんにはチラホラ抽象表現主義絵画も混じっており、
ロスコなんてヒドい扱いで映像作品の部屋と同じ部屋にコソッと展示。
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意外だったのが、スティルが何枚かあったこと。
アメリカ以外でスティルを見たのは初めてじゃないか。
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加えて良いマザウェルとか、謎に抽象表現主義の中でも渋いところを持ってる。
なんでだろう。当時アメリカとの良好関係があったのだろうか。

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ロペスの絵画、小さいのが数点。もっとドバッと見れるかと思いきや。
しかもあれあんま感動しない。
同じくロペスのこのリアリズム人物像の出来の良さにむしろ凄み。


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くっついてる図書館がカッコいい!!

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カフェもこんな感じ。
いや〜ここもずいぶん広くて、かなり時間かかってしまった。
結局他を見ずにタイムアップ…。

腹ごしらえに、これまたすぐ近くのケンタッキーに入った。
チキンを食べていたら、ホームレスのばあさんが
客席を回って物乞いしてきた。
うっ、Badなスメルが…しょ、食欲が減退する…
客は皆ガン無視を決めて、最後にゴミ箱あさりしていたら
警察に連行されていった。。。ハードだわ。

駅からバスで空港へ。
結局、駅もプラドもソフィアも宿のすぐ近くだったので、
マドリッドでは半径500m以内の移動しかしてないな。 
市街地や観光中心地はもう少し先のようだし、
どんな街かさっぱり実感が無い。

ベルリンまでは3時間のフライト、けっこう離れてるな。
到着したら、寒い!!!
寒いけれども、このさすがの安定感雰囲気。
一気に落ち着くぜ。おれはベルリンが好きだ。

ああ〜なんか…全然スペインを満喫した気がしない!!
半分は風邪のせいだ。
イタリアもまだまだ見たい場所がたくさん残ってるし。
北欧の都市なら割とサクッと見て回れるけれど
さすがに南ヨーロッパをこの日程で回るのは無理があったなあ。 

それでもごっそり傑作を見たんだから十分過ぎるけれど、
一気に詰め込み過ぎた。コンテンツ豊富すぎるわ。 
ちょっと咀嚼するのに時間が必要だ。
またじっくり来れたらいいなあ。
 
ちなみに、日本本土とヨーロッパのおおよその比較をすると
こんな感じだ。
日本&ヨーロッパ
緯度は日本はもっと南にあるのだが、
ドイツの北端に北海道の北端を合わせてみました。
マドリッドからベルリンは、だいたい、鹿児島から釧路くらい。
こういうスケールで文化圏を考えるのもおもしろい。

日本は狭い小さいと言うイメージがあるが、
こうやってみると国土自体は狭くないし、長い。 
ただ、山だらけだから住める場所は狭いのか。 

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