やまもとのグレーゾーン

札幌の絵描き山本雄基のきまぐれ雑感と日常。

カテゴリ:海外美術鑑賞記 > 2013冬オスロ

朝一の飛行機で今度はオスロへ。
航空会社がairberlinなので今回はテーゲル空港発です。

もちろん現地でムンクを見るために行くのだが、
いろいろ調べてたらオスロにも昨年できたばっかりの現代美術館があるとのことで
楽しみ倍増だ。
2時間弱でオスロ空港到着。

今年はムンク生誕150年らしく、
夏に過去最大級の回顧展が行われるらしい。
特設サイトもある。

ホントはその展示が見たかったのだけどなあ。
そのためか空港からすでにがっつりムンク推し! 
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もちろんタブローではなくプリントのパネルだ。
ウェルカムムードでとてもキレイな空港なのに、
いきなりこんな妙な絵を堂々と見せつけてくるの凄い笑

バスで市内へ40分。片道140クローネ。
北欧のクローネという響きはもはや軽くトラウマな高額っぷりだ。 
ノルウェークローネは今1クローネ=17円くらいなので、
やはり高い…。

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がんがん開発中な雰囲気の新興ビルエリアを通過して、バスは中央駅に到着。
いやあ今日は快晴で思ってたよりポカポカ暖かい。

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首都の中央駅の割とには小ぢんまりしてて、キレイな雰囲気だ。

歩いてすぐにまずオペラハウスがあるので行ってみる。
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海に面していて不思議な形。中もちょっと見てみたけどカッコ良い。

スロープから屋根までダイレクトに登れて、街並とオスロフィヨルドが一望できる。
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おお〜オスロフィヨルドは地味なフィヨルドだけど、
それでも見た事無い雰囲気の海って感じはするな。 

次に駅前からトラムに乗って、
早速Astrup Fearnley Museetという現代美術館へ向かう。
ぐ…トラムも一回500円くらい!
しかも最寄りの停留所の市庁舎前で降りてみれば、
駅前からでも全然歩ける距離だったし。
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なぜか市庁舎には入れないようになっていた。
この中にも絵画作品だらけだと聞いていたのだが残念。

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これはノーベル平和センターだって。
気になるけど時間の都合で断念。

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市庁舎前の広場から西への海岸沿いはニュー観光スポットって感じがして、
遊歩道になってて平日の午前中でも結構人が集まってる。
その先にAstrup Fearnley Museet があった。
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これまたインパクトある建築、レンゾ・ピアノ設計のようだ。

エントランスにいきなり置いてあるのがなんと、
村上隆さんの3mフィギュアじぇねぇか。
しかもこれ去年ガゴシアンで発表したばかりの超近作だ。
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後ろに回ると女の子のお尻がベロッと出てて、
パンツの食い込みがちょうど大人の人の顔の目の前に来るような彫刻なので、
日本の美術館に展示していたらクレームの可能性あり。
が、ここでは老若男女(ベビーカーの赤ん坊含む)が割と楽しそうにwow...!
な感じで鑑賞されていた。

賛否のありそうな彫刻だが、Takashiさんの絵画同様
細部の細部まで作り込みが尋常じゃない。 
単純な話、
例えばこないだイタリアで見て来たベル二ーニの
「聖テレジアの法悦」がエロくて超絶技法なことを考えると、
扱うモチーフこそ現代的で日本のポップカルチャーの一部だけど、
造形的なアプローチは極めて古典的なクオリティ主義なのではないか。 

地元の若者らしき人に「ちょっと写真とってちょうだい」と
言われ、作品とツーショットで取ってあげたりもした。
何処に行っても写真を頼まれるのは、
いつも僕の首から一眼レフがぶらさがっているのと、
頼みやすそうな隙があるんだろうな。 

美術館の半分は、狭めのブースが並んでいて、
地元を含む多種若手のラインナップ。
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日本の三宅信太郎のインスタレーションもあった。

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79年生まれ、Nate Lowmanという作家の絵画…
なんでこのくらいのクオリティでここにインしているのだろう。

もう半分はめっちゃくちゃゴージャス。
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まずハーストの代表作がズラリと。
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スポットペインティング凝視する。
凝視したってこのドライな画面に絵画らしい感動はしないのだが。
前にも少し書いたが、下塗りキャンバスに手塗り感のあグロスの効いた円。
キャンバスのサイズと配列の幅が完全にピッタリしてるので
作るのは見た目より面倒だろう。
プロセスを想起させるようにルールに従って作られたシンプルミニマルな画面に、
カラフルな色彩ドットによる装飾性、
これだけでもデミアンコンセプトに潜れるし、絵画になってますっていう作品だな。


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バーニーの大規模なインスタレーションも。
クレマスターのいくつかも流れてる。

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奥にはまたクリストファー・ウール。今やどこにでもありますね…。
最初に現物見た(バーゼルだったか)時の期待にそぐわぬ感動は、
もうしなくなっちゃったかもしれない。
やっぱこのシリーズよりも最近のスプレー擦ってる作品の方が良いかな。

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トレーシー・エミン。
布地の作品は初めて見たが、以外とセンス良いのかも。

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クーンズも、バスケットボールもマイケルも巨大絵画もズラリ。圧巻だ。

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この下ネタ絵画を凝視してみる。
遠目から撮った写真だと、転写の上にバサバサ描いた筆跡って感じに見えるが、

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全部細密描写。ヤバすぎ。
アシスタント総動員としてもやっぱこれ見ちゃうと唸るしかねえわ。
徹底されたスーパー細密描写による、
ナンセンスなデジタルコラージュイメージの絵画化。
絵画も、現代美術のアプローチにおいて色々な使われ方をする。

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さらにキーファー、ポルケの巨大作品が並んでいる。
やっぱりポルケの絵画には絵画愛があるよ。

…しかし、この超ミーハーなラインナップはどういうことだ。
しかもどれもマスターピースレベル。 
まさかオスロでこんな展示を見る事になるとは…
私設美術館らしいので、
超大金持ちで超一流ギャラリーのお得意さんがいるのかな。

割とどこでも最新の現代美術館は、
超有名建築家の建築と超有名現代美術作品群がセットになっていて、
入り口前にはオシャレな広場があったりして、街の少し郊外に位置して、
「文化レベル高いぜ!アピールのパッケージセット」
のようになっている印象。
その象徴的な存在をここに見た気がした。

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賑わう海岸沿いを戻って、西側へぶらっと歩きながら、

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次に国立現代美術館、ノルウェーの70年代以降のビデオアート企画展で、
サラッと見ただけだが面白かった。映像研究室の生徒さんに見せたい。


そして市街地を通り、国立美術館へ。
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それほど大きな規模じゃないけど、
印象派やブリュッケ、ピカソなどは一通り揃っている。
それより何よりムンクの部屋のラインナップが感動的。
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叫び、マドンナ、思春期など代表作がズラリ!やべー。
各作品で塗りの質もさまざま。
叫びの一番有名なバージョン、
ダンボール板にフレスコ、色鉛筆で描かれていることを知った。
そのせいか色彩も想像以上に柔らかくなっている。

晩年の「キャベツ畑の中の男」なんかはものすごく変な絵!
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見た事ある有名な中に突然これが入っててギョッとする。

鬱々とはしているけれど、やっぱりムンク絵画は装飾性の意識が高い。
実はマティスと同系列の、裏側に位置するって感じ。
若い頃はフランスやドイツに滞在して活躍しているし、
同時代の美術ムーブメントをかなり取り込んでいる上で、
自分が元々もっているローカル性や個人体験が奇跡的に融合されてるよなあ。

同じ流れの地元作家も風景画を中心にけっこうおもしろい。
作品が良いっていうよりは、風土性が如実に現れてるところが。
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ついこないだまで南方にいたせいか、余計にそのギャップを感じる、

ただしかしムンクは別格だわ。
ノルウェーの国自体がそのムンクをこうやって大事に扱ってるのが凄い。
ムンクの遺志で多くの作品はオスロに纏まって、
積極的に他国に貸し出す事で存在感を絶対的なものにしていったのだとか。
う〜ん、このバランス…理想的。

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ユースホステルは中央駅から北へ徒歩10分。
オスロにはホステル少なくてやはり割高な中、
ここが一泊30ユーロくらいで便利。 
食事はもちろんスーパーのパンやホットドックで済ませる。 

オスロ2日目。
Facebook上でリアルタイム旅報告をしていたら、
I先生から、オスロなら海洋博物館にも行くべきだとのレコメンドが。

急遽予定を詰めて朝一で駅前からバス乗り、
博物館方面のビグドイ地区へ。ちょっと郊外。

博物館エリアに着くと、別々の建物が3つもあった。
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「Kon-Tiki」「FRAM」「Norsk Maritimt Museum」
…ん〜、下調べ不足でどれが何なのかわからない。 
名前からしてNorsk Maritimt Museumが海洋博物館っぽいので
これに入ってみる。
中は古い船や船の装飾、船の歴史を追う模型群、
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海洋絵画などが地味ながら並んでいてなかなかおもしろい。

次に隣のKon-Tikiって書いてる建物へ行ってみる。
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中にでっかい船の模型がドーン!
説明をババッと読んでみたところ、
Kon-Tikiっていうのは船の名前で、
ヨーロッパから太平洋の島々まで研究のために渡った偉大な船らしい。
語学力不足で詳しい経緯などわからずだったが、
こちらもなかなかの見応え。

あとからネットで調べたらハイエルダールっていう民俗学者が
南アメリカからポリネシアに文化伝承があったことを証明する為に、
ペルーからコンチキ号で太平洋を横断したとのこと。

なるほどそれで民族博物館にあるような装飾具類なんかも展示されてたのね。
モアイ像のレプリカがあるのもそういうことか。
 
時間が無くて「FRAM」と書かれた妙な形の建物は断念したのだが、
後から調べたらここが一番オススメらしい…なんてこと!!
フラム号っていう北極探査船の博物館で、この船が丸ごと保存されてて
中に入っていろいろ見る事ができるらしい…めっちゃ面白そうじゃねえか!
しまった。

そこからちょっと離れて10分ほど歩き、
博物館系で一番の人気スポットらしいヴァイキング船博物館へ。 
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うわあ展示がとても洗練されている!
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デカくて黒い、洗練された形のヴァイキング船にぴったり合う様な建築。
船は土に埋まっていたのが発掘されたモノらしく、
女王の埋葬に使われてたらしいんだって。 

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いろんな道具類の装飾もおもしろい。

船だらけの異質な博物館群を後にして、
バスで今度は ヴィーゲラン彫刻公園へ。
ここはもっともっと異質だ。
ムンクと同時期くらいのノルウェーの彫刻家ヴィーゲランが
作った公園で、
妙なポーズをした人体や、妙な形に絡み合う群像が
広い公園内にズラリと並んでいる。 
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同じポーズをとってはしゃいでる人達。気持ちはわかります。

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どうでもいいけど犬、エラいな。

札幌の芸術の森にも作品があるので、
周りには知ってる人も多いかも?

しかも公園の中心には、ごちゃごちゃごちゃごちゃ〜っと
すしずめのように人の群れが凝縮された塔が建っていて、
その周りもものすごいポーズの群像が並ぶ。
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最初はおかしなインパクトとして見えていたが、じっくり見だすと
けっこう感動してしまう。人生に対して表現がダイレクトなんだもの。
赤ん坊、思春期、恋愛、家族、老い、全部このぐちゃぐちゃの中に
詰まってるじゃねえか。 
それにそもそも造形レベルが高い。
 
横にはヴィーゲラン美術館も併設されていて、
公園の彫刻のプランや、他のいろんなタイプの作品が並んでた。
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プラス企画展で、スウェーデンの作家マイケル・ヨハンソンの個展。
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スタイリッシュなインスタレーション。 
この作家さん、横浜の黄金町バザール2012に参加してたのね。

やべえ見応えあって、長居してたらだんだん時間が無くなって来た。
帰りの便は今日の夜だ。
急いで今度はトラムと地下鉄で ムンク美術館へ!
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地下鉄、やっぱ北欧はホームも電車もキレイだ。

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到着。

しかしムンク150周年サイトで見た感じ、
薄々そうなんじゃないかなと予想していたが
夏の回顧展でドバッと一挙に公開するせいなのか、
今は違う展示をしていた。

ドイツ表現主義ベースの個人コレクションの企画だった。
それはすでにドイツでいっぱい見てるからもういいっす!

にしてももう少しムンクも織り交ぜてるのを期待していたなあ…
ムンクは最初の一部屋と残り数点のみだった。
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もちろん並んでいた作品群は勉強になった。
晩年の有名なこの自画像も拝めたし、
フラットな色面を強調してる作品、
思春期の別バージョン、ヴァンパイア…
やっぱりムンクはヤバいぜハアハア!!

僕にはこういった狂ったレベルの感情へのダイブや世界の知覚ができないので、
そのような感覚を少しでも見せてくれて、
かつ装飾的なムンク絵画に惚れてしまうのかもしれん。

企画展はこんな感じ。
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帰りは中央駅からメタリックな快速で空港へ。
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離陸直後の夕暮れオスロ上空の不思議なフィヨルド風景で締め。

いやあ、オスロは小さい街ながらパンチが効いてて良かったな。
100年前の地元出の作家の名作美術と、最新の都市型現代美術の対比が
こんなに激しい場所はなかなかないかも。

僕は帯広からの札幌っていう、
ローカルのローカル出なので、考えさせられる対比だった。
当然ながら、
都市型パッケージされてるような大御所作家の皆さんだって、
必ずどこかの地域で生まれ育ったわけで、NYだろうとロンドンだろうと
それぞれがローカル性を持っているわけだ。
プラス、大都市には大都市特有の非ローカル性があるように思えて
そこに照準が合わさってるような現代美術コレクション。
大きな古典美術館も似てますわな。

一方で、ムンクはフランス(ニースにも!)やドイツに滞在して
当時の最先端の芸術運動に触れているし、
ヴィーゲランもフランスやイタリアに留学していろんな影響を受けている。
ずっとノルウェーに居続けたわけではなくちゃんと最先端を勉強してるんだ。
その上で作家本人の遺志や国の考えで、
最終的に作品が他国に散らばりすぎないようになっていて
それがそのまま観光資源になっている。
地元出の芸術家がそのまま観光資源になってる状態って羨ましいよ。
これも1つのローカル推しのパッケージングだと思う。

どちらにしたって、
少なくとも造形作家が一番大事にすべきことは変わらんのな。

まあ、ノルウェーはローカルとはえ立派な西洋の一部なので、
さらに遠い東洋日本の北海道からやってきた僕はまた
状況は違うけれども、何かが少しクリアに見えた気はする。

それと驚いたのが、
instagramでMunch150ってアカウントをフォローしたら、
自分が美術館で撮ってアップした写真を速攻Likeしてきた。
柔軟な態度に関心させられた。 

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